Chef

Shinichi Satou

佐藤 伸一
1977年
北海道帯広生まれ
2000年
22歳で単身渡仏(パリ・アストランス、スペイン・ムガリツなどで修行)
2009年
パリに【パッサージュ53】をオープン。翌年には、1年を待たずして1ツ星を獲得。
2011年
日本人として初のミシュラン2ツ星を獲得。

その料理観は、常に変化し、進化しつつも、
素材の中に在る【本質】を見つけ出すことにあり、
卓越した感性により、何処までも【洗練】させた作品を創り出している。
現在、自身の最終章として、新たなステージを創る為の準備期間に入っている。

2019年10月に行われた世界料理学会in函館。

その中で行われたトークセッション“佐藤伸一の今”を
会場では話切れなかったことを改めて活字化致しました。

20年来の友人である石井誠が、聞き手となり
来日中に、食事などを交えたプライベートな場所での会話なども含め、
普段のインタビューよりも、少しだけラフに、そして
より真実に近い形で、佐藤伸一の今を掘り起こしています。

この場を借りて、彼の言葉が、より多くの方の目に触れることを
心から望んでおります。



【今、佐藤伸一に聞く10の質問】



No.01. パリでの20年

     
  • --- この20年パリに居て感じてきた事は?
  •   その当時と比べ物にならないほど日本人料理人のフランスでの評価が上がった事を大きく感じます。
    ただ、同時に最近は日本人の評価を下げるような料理人も出て来ているのも事実です。
    料理自体の変化はその前の20年より圧倒的なスピードで変化していますが、
    今はフランス料理とかイタリア料理とか、北欧料理とかそういうカテゴリーではなく
    シェフ個人の料理という時代になったなと思いますね。

       --- 伸一でも、新しいものからインスパイアされることってある?

    料理雑誌で見る今の若い人たちが作る料理はとても頭が良い料理だなと感じます。
     自分にはない感性やビジュアルの美しさなどは素晴らしいなと羨ましく思います。

    --- 流行に対して自分として受け入れなかった事は?

     SNSやネットで他の料理人の料理をあまり見ていない事でしょうか。
     そのシェフがどこの土地で、どう発想してその料理を作り上げたのかというフィロソフィーが大切だと感じているので
     その料理を画像で見ても食べてみないとその本当の価値が分からないと思うので
     表面上だけの情報はあまり取り入れないようにしてます。

    --- 今の料理のトレンドに対する意見みたいなものってある?

       最近のトレンドが良く分かってませんが、自分自身はあまりトレンドということが好きではない性格なので
     常に流行的なものとは反対の方向を向いて進んで来たと思います。

 

No.02. 今、作るべき料理

  • --- この先作るだろう料理は?そして、今までと違うこと、変わらないことは?
  •  パッサージュ53を始めた頃は過去の修行経験の引き出しを開けることから始まり、
     その日のインスピレーションという名の完成度の低い料理を作っていたと後になって感じています。

     そして修行時代の引き出しをほぼ開いてしまった頃に2つ星の評価を受けてしまい、
     より新しいこと、他のお店では食べられない「作品」を作らなくてはいけないというプレッシャーがありました。

     良い素材で丁寧に調理をして美味しいのだけど、面白さが足りないと感じ、
     余計なものを加えたりパーツが多い料理が多くなっていました。

     その後、考えてもアイデアが出て来ないので、シンプルに美味しい料理を作ろうという時期が来て
     でもその頃のシンプルはまだ今思えば複雑な料理であったと思います。

     今は日本で食べるお鮨や和食などの一流店にとても刺激を受けており
     単純そうに見えるけれど奥が深い職人的な料理をフランスの食材を使って
     日本では絶対に食べられない料理を作りたいと思っています。

     変わらないことはやっぱり美味しい料理を作るということ。

No.03. 孤独

  • --- 異国の地に住み20年様々な想いがあったと思し、
    シェフとして常に孤独だったとも思うけど?どう?

  •  フランス語を全く話せない状態から始めたので、伝えたいことが伝えられない悔しさは常にありましたね。
     でも一生懸命に仕事し、結果を残せばどの職場でも認めてもらえるというのはやり甲斐のあることです。

     自分自身にも完璧な知識や技術があるわけでもないけれど、
     常に新しい料理を考え出し続けなければいけないプレッシャー
     スタッフのモチベーションを上げること。

     料理だけでなく経営面やお店の内装やワイン等、その他お店に関わる全てのことを
     誰かに相談しても結局は自分で考え行動に移さなければいけない。
    そこに孤独感と責任を感じて来ました。
     まぁ、結局、他のシェフの皆さんと一緒ですよね。

     ---そうだね。じゃ伸一は、その孤独とどう向き合ってきたの?

     孤独感や壁を乗り越えて来たというより、耐えて来たというか、もうこれは自分が生きていく上では
     常に繰り返される試練だと思ってそれと共に生きていくという事なんだと思いますよ。

No.04. 嫌いなヤツ

  • --- 好きな料理と嫌いな料理。あと嫌いな食材とかは?
  •  好きな料理は鮨や天ぷら、炭火焼などのシンプルなものですかね。
     同じことを繰り返し極めていく職人的な料理が好きです。
     毎日の努力と集中力がなせる技だから。

     嫌いな料理は、料理人の心が詰まっていない、ただ調理作業をしただけの愛情のない料理、
     誰かのコピーみたいな料理。作り手の性格が表れていない作品には魅力を感じないから。

     食材も同じく、工場で生産されたような作り手の気持ちが込められてない食材は嫌いですね。

        --- じゃーさー、話変わってこの仕事に向かないタイプは?

     向上心のない子はこの仕事には向かないと思いまよね。

     働き方改革などはフランスでも進んでいて、1日何時間勤務とか厳しくなっていますが
     そもそも、仕事とは自分の成長の為にするものだと古いタイプの自分はそう思います。

     いつもスタッフには言いますが、僕からお願いして働いて欲しいと頼んだ人間は一人もいません。

     その人たち自らうちのお店を選んで、履歴書を持って面接に来て働かせて欲しいと行って来た人達です。

     働くお店を選ぶ際も、自分で実際に食事に来て、美味しいと感じ
     このお店で働きたいと本当に感じてから働くべきだと思います。

     入ってみて違ったというのは、単純に有名店だとか星付きだとかうわべの情報しか見ずに来た結果ですよね。
     僕たちやその上の世代がそうだと思いますが、確かに労働時間は今より長かったと思いますが
     新しい技術や料理を学べる喜びがあり夢中で働きました。

     1日8時間より16時間働ければ人の2倍早く成長出来ると洗脳されたのかもしれませんが・・・。

     でも実際その分早く仕事を覚え、評価を得られたり、対価を得られたりするのではないでしょうか。

     もちろん誰でもお金も欲しい、時間も欲しい、ならその為にどうするかを
     自分自身で考えて行動に移すという行動力も必要だと思います。この職業に関わらずですが。

No.05. 自分の可能性

  • --- 自分のポテンシャル、強み、この先の可能性、なぜ信じられるのか?
  •  どこまでのポテンシャルがあるか自分では分かりません。笑
     でも常に目標があるから諦めないし、心の強さがあるのだと思います。
     20年前に異国の地に来てから何度も挫折しそうなほど辛いことを沢山乗り越えて来たから
     心が強くなったのだと思いますし、諦めたら自分の存在価値がなくなると思っていましたから。

    --- 信念の基になっているもの、エネルギー源とは?

     向上心だと思います。
     料理だけに限らず、趣味が多いので、ワイン、ウイスキーなどの洋酒
     インテリアやファッションなど、もっと上質なものを突き詰めたいという欲求が強いと思います。

    --- 僕の中に在るものとは?

     他の人に負けたくないという気持ち、認めてもらいたいという欲求。
     昔から背丈が小さく童顔で、コンプレックスの中で育って来た影響が大きいのだと思います。

      --- 一流とは何か?

     自分はとても一流ではないので、分かりません。
     ただやはり、才能がありながら努力を惜しまない人だと思います。
     自分はあまり努力をしていないと分かっていながら、すぐに楽な方に向いてしまうので実際は2流以下です。笑

    --- 鮨一幸の工藤さんからの質問だけど、自分に才能があるって思う?

     才能というよりも、両親から授かったものか、
    成長過程で得た「センス」というものが少しだけあるのかもしれません。
     細部にまで拘ることは、私生活ではあまり良くないのかもしれませんが、
     仕事の上ではその性格が役に立っているのだと思います。
     でも自分以上にセンス、才能があると思える人はいくらでもいるので、
     ステージが上がれば上がるほど自分に才能がない思うのが本音です。

No.06. 人生において3つ星とは?

  • --- 色々な人生があり、人によって幸福も人生観も違うが、伸一にとっては?
  •  20年前にフランスに渡った時に、自分自身がいつか星付きシェフになるなんて微塵も思っていませんでした。
     ましてフランスで。

     様々な経験を経て、運良く1つ星に続き、2つ星を頂いたという僕の人生においては
     いつの間にか3つ星を目指すことが目標の一つとなってしまったという方が正しいのかもしれません。

     料理人の誰もがその目標を目指す必要はないし、それが幸せなことだとも思いません。

     僕自身が料理人になった理由は、自分が作る料理が他の人を幸せに出来るということ、
     肩肘張らずに気軽に美味しく食べられる料理を作る方が 本来は目指していたことだった気がします。

     「知ることの幸と不幸」を大人になってからよく考えます。

     昔に初めて飲んだワインが近所のスーパーで買った1000円代のワインでも美味しく感じていました。

     でも勉強し、渡仏し、ブルゴーニュのドメーヌでも研修し、
     ドンペリ二ヨンもクリュッグもサロンもコシュデュリもDRCもドーヴネイも
     飲むようになると、もうその1000円代のワインなんて飲めなくなってしまう。

     そんな世界を知らなければ、そんなに必死に働いて稼がなくても、スーパーのワインで楽しく飲めていたのだから。

     これはワイン以外、レストランも、ファッションも、インテリアも、車も同じ。

     でも自分はその世界を知りたかった。

     その好奇心が、いつの間にか自分が3つ星を目指すという今の環境を作ったのだと思います。

    --- では、伸一の人生において3つ星とは?

     2つ星を頂いてしまってから、特に周りが「3つ星」という言葉を発するようになったということの方が
     正しいのかもしれませんね。

     自分では3つ星を今のレベルで取れるなんて全く思っていません。

     2つ星と3つ星の間には、とてつもなく大きな差があることが自分でも分かっているので。

     でも諦めたら当然その先はなく、出来る限りのチャレンジはしたいと思っています。

     また、フランスで日本人のシェフの評価が上がったと言っても、まだ誰一人3つ星の日本人がいません。

     それは本当の意味で日本人がフランスで認められたことにはならないと自分は思っています。

     だから余計に日本人として3つ星評価をフランスで取りたいという気持ちもあります。

       ただし、すべての事と同じく、上を見続けることに終わりはありません。

     例え、いつの日か3つ星を取ることが出来たとしても、それが終わりではなく
     ある意味そこからがスタートになるのだと思います。

     設定した目標を達成したらまたそこから次の目標に向けてのスタート地点になるだけのこと。

     もっと自分の理想のレストランや料理があり続けるとおもうし、誰かに評価されることではだけはなく、
     自分自身が目指すものを追い続けることの方に意味があり大切だと思っています。

     

No.07. 今の若者に伝えたいこと

  • --- 今の若い世代、或いは20代、30代のシェフへのアドバイスってある?
  •  つい最近まで自分も若手シェフと呼ばれていたようか感じがします。(笑

     2年前に40代になったばかりでアドバイスなんて・・・。

     料理雑誌などで見る若手のシェフ達は本当に才能があるなと本当に羨ましく思っていますよ。

     料理を作る側の感性も鋭くなっているけど、食べ手の方も昔とは大きく変わっているように思いますが
     あまり周りのことを気にせずに、自分自身がが美味しいと思う料理、楽しいと思う料理を作ってもらいたいと思います。

     自分が満足していない料理では、お客様を喜ばせることは出来ないと昔から思っているので。

     現代は特に料理人は料理だけでなく、お店の内装や飲み物全てにおいての感性がないと難しい時代ですが
     そういうところでも自分の表現が必要ですし、その意味では昔のシェフ達よりセンスが良い人達が多いですね。

    --- 自分の料理を確立する術ってある?

     フランス料理の世界では昔から変わらずに独創性というものが特に評価されるように思います。

     日本人の自分から見ると欧米の最近の料理では「美味しさ」よりも「斬新さ」「見た目の美しさ」「新しさ」
     その人にしか作れないものに価値があることは間違いないですが、僕の場合は日本人として大切にする
     「食材の本質的な美味しさ」を表現することが個性だと思いっています。

     自分にしか出来ないもの、その料理を見て、そして味わった時に誰が作ったか分かるような料理でなければならないと
     思いながら常に料理を考えています。

     また、自分はワインからインスピレーションをもらって料理を作ることがあります。

     それは、ワインの味に合わせた料理を作るという意味ではなく、ワインの味の完成度という意味です。

     一流のワインは味わいのバランスが完璧です。

     世界中の人に愛され、取引されているということで証明されていますが
     多くの国の、どの味覚の人にも喜ばれているワインの味を常に経験することによって
     料理の味わいの完成度を高めることができると思っています。

No.08. パリと日本

  • --- 今の若い世代、或いは20代、30代のシェフへのアドバイスは?
  • 今の日本のレストランの水準、フランスとの違いや差。

    料理人の技術レベルで言えば、もはやフランスより日本人の方が高いのではないでしょうか。

    フランス料理だけに限って言えば、日本のシェフの方が独創的だったり、緻密な料理を作っている人が
    多いので、そういうシェフ達がフランスに来てお店を持てば、3つ星を取れる人はたくさんいるのではと思っています。

    差があるとすればフランス人と日本人の文化の違いはありますが、
    料理が国の文化だという意識はフランスの方が高いように思います。

      あとはお客様の質は全く違うと思います。

    どちらが良い悪いではないですが、フランス人の方が意見をハッキリいうというか、
    褒めるところは褒めるし、そうでないことも言います。

    またフランス人も星やランキングを気にしないわけではないですが、
    そういうものよりもっとサービスや料理で判断する方が多いと思います。

No.09. 自分と他人の違い

  • --- 自分の個性や感性の違い、料理を考える上で着眼点の違いは?
  • 単純に「あまのじゃく」なんだと思います。(笑

    人と違うことをしたい、それによって自分を認めてもらいたい・・という感じですかね?。

    だから常に周りの人がやっている事と違うこと、他の人には出来ない事したいと思ってます。


      --- 伸一が貫いてきた信念、そして伸一自身の人生観について少し聞いていい?


    繰り返しになりますが、自分はコンプレックスや自身のなさの中で生きて来ました。

    人に認められたいのに努力家でもないので、常に目標や夢を先に言葉に出し周りに伝え
    言ってしまったからやるしかないと自分を追い詰める事で壁を一つづつ乗り越えてくることが多かったと思います。

      また、自分は本当に沢山の人に支えられて来ました。

    色々な親切な方々のお陰で今の自分があります。

    その人達に、自分が結果を残すことによって恩返ししたいという想い、
    自分がお世話になった事を自分より下の世代に伝えたいという気持ちが強く
    数々の困難を乗り越えられた大きな要因です。

    人に対しての感謝の気持ちを持ち続けることが何よりも大切だと思います。

     

    No.10. 結婚について

    • --- ホントは、ズバリ結婚観について聞きたいけど、
      ここ数年定番になりつつあるドリンクペアリングについてどう思う?

    • 結婚ではなくマリアージュ(ドリンクペアリング)の話ですね。(笑

       お酒は強くないですが美味しいお酒が好きなので、ワインだけでなく、
       ウイスキー、コニャック、アルマニャック、カルバドス、ラム、オードヴィなど色々と集めています。

       そして、つい最近はミクソロジーカクテルにもとても興味があります。

       ちなみに僕はグランヴァンをよく飲みます。(笑

       そういうワインは料理より圧倒的にレベルが高い物が多いので
       ワインを飲んでいるだけでも喜びがあり、それに見合う料理があればなお良いですが
       そうでなくても美味しいワインがあるだけで食事が楽しくなります。

       個人的に料理とワインの相性よりも
       好きなワインを飲みながら食事をしたいというのが自分の考え方なので
       完成度の低いペアリングメニューは好きではありません。

       もちろん例外の素晴らしいペアリングのお店もありますが
      、  大抵の場合は料理とドリンクが喧嘩しないだけで、
       お互いを引き立てるというレベルに達してないものが殆どだと感じるからです。

       そもそもそんなぴったりと言えるほどのワインが、その料理を提供している期間中安定的に入手することは
       難しいと思いますし、一部のお店を除いて価格的にもそこそこのワインしか扱えないですよね。

       満足出来るペアリングと言えないものなら自分のお店ではやりません。

       僕が好みの味のワインしか仕入れない為、自分の料理の味と方向性は似ているはずなので
       極端な選び方でなければどれを選んでも大丈夫ですとお客様にお伝えしています。

       ただ、あくまでこれは個人的な意見であって、自分のようにどのお店に行っても
       ワインリストを見るのが何よりも好きなお客様の方が少ないですし
       自分で選ぶより、お任せできて予算も適当なペアリングが良いというお客様の方が大半です。

       料理だけでなくシェフとして新しい可能性のペアリングで個性を出すことも必要だと思いますし
       ソムリエも、もっと料理の勉強をして欲しいと思います。

       また最近はフランス人でさえアルコールを飲まなくなってきていますし、
       世界中でノンアルコールペアリングをするお店が増えて来ていますね。

       アルコールの売り上げが減る分、今後はそういう対策も考えていかないといけないと思っているところです。

    【編集後記】

      長年の親友であり、僕の弟的存在、そして、尊敬する同志でもある“佐藤伸一”は、
      会うたびに、その魅力を増していくように映った。

      今回、彼との会話の中で一番感じたことは、彼は常に勉強し、過去からも学び、
      “今”の自分に繋げている・・ということ。そう、彼は常に考え、学び、進化している。

      今現在、パリで新しいレストランに向け、物件を探している最中だが、
      彼の並外れたパワーと感性、味覚をもってすれば、きっと夢は叶うはずだ。

      いつも、僕の横で物静かに“大きなハッタリ”をかまし、
      子供っぽい笑顔で冗談交じりに夢を語り、そして、その全てを叶えてきたのだから・・

      僕もまだまだ現役。彼の背中を押したり、眺めたりではなく、今度は共に夢を叶えたいと思うのです。

      (インタビュー・構成 イシイマコト、写真:TAKESHI MATSUI)